現代の「トキワ荘」はユートピアか無間地獄か!? 創作の苦しみを描く守屋文雄初監督作『まんが島』

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漫画家たちの無人島でのサバイバル生活を描いた『まんが島』。トキワ荘のようなユートピアかと思いきや……。

 人気コミックを原作にした映画『バクマン。』(15)は“友情・努力・勝利”という売れる漫画三大要素をフル活用した内容で観客の感動を誘い、17.8億円のスマッシュヒットを記録した。連載誌の読者アンケート1位の座をめぐり、漫画家たちがしのぎを削る漫画業界の内情をドラマチックに描いた『バクマン。』だが、普段からガロ系の漫画などを読み親しんでいる人はこう思ったに違いない。「いや、少年ジャンプだけが漫画じゃないから」と。そんなあなたに薦めたいのが、守屋文雄監督の監督デビュー作『まんが島』だ。家賃、光熱費、電話代を気にせずにいられる絶海の孤島で暮らす売れない漫画家たちが、まだ誰も読んだことのないオリジナルな漫画を生み出そうと苦悶する姿が107分間にわたって描かれる。

 漫画家役を演じているのは、4月からテレビ東京系で深夜ドラマ化される『SRサイタマノラッパー』(09)のTOM役で知られる水澤紳吾、白石晃士監督の傑作ホラーコメディ『オカルト』(08)などで怪優ぶりを見せている宇野祥平、劇団「動物電気」を主宰する政岡泰志ら主にインディーズシーンで頑張っている人たちだ。本作のメインキャストのひとりであり、プロデューサーも兼ねているのが守屋監督。日本大学芸術学部映画学科卒業生で、沖田修一監督の『キツツキと雨』(12)や熊切和嘉監督の『ディアスポリス DIRTY YELLOW BOYS』(16)などの脚本家であり、いまおかしんじ監督のピンク映画にもちょくちょく役者として出演している。大学で同期だった沖田監督は『南極料理人』(09)や『横道世之介』(13)が絶賛され、今やすっかり売れっ子監督。大学の2学年後輩となる入江悠監督も『SRサイタマノラッパー』で一躍ブレイク。自主映画時代の仲間たちが華々しくスポットライトを浴びる姿を見守ってきた守屋監督だったが、40歳となってようやく監督デビューを果たしたのが『まんが島』である。

 本作に主演している水澤紳吾は、仙台出身の守屋監督とは小学校時代からの幼なじみ。当時は藤子不二雄、ゆでたまごといったコンビの漫画家が大活躍していたことから、「2人でプロの漫画家を目指そう」と誓い合い、合作漫画の執筆に励んだ。とはいえ子どもは熱が冷めるのも早い。2人で漫画家になる夢は1~2年で頓挫したが、その後も友情だけは続く。沖田監督や入江監督へのライバル心をむき出しにすることのない守屋監督に対し、「いつになったら自分の映画を撮るんだよ」と水澤は酒の席でせっつき続けた。インディーズ映画界、ちょっといい話。

『まんが島』の中で水澤と守屋は藤子不二雄を思わせる漫画家コンビを演じているのだが、本作が「トキワ荘」伝説のような貧しくも美しい友情の物語なのかと言えば、まるで違う。無人島で暮らす漫画家たちはそれぞれがオリジナルな漫画を目指すも、うまくペン入れが進まず発狂寸前。お互いに励まし合う余裕はもはやなく、ネタの盗用や食べ物をめぐってドロドロの争いが繰り広げられていく。漫画家たちは自分が描く漫画の世界のみに没頭しすぎ、現実と虚構のボーダーさえも島ではあやふやになっていく。島の浜辺には「マンガ家以外の立入を禁じる」と立て札が掲げられ、まさに一般人がうかつに足を踏み入れると非常にヤバい映画なのだ。

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この人が守屋文雄監督。「脚本段階からお客さんのことは考えず、島で暮らす漫画家たちのことしか考えなかった」と語る。

 構想10年の末に初監督作を完成させた守屋監督に、製作内情について1時間ほど話を聞いた。

守屋文雄「日大芸術学部では沖ちゃん(沖田監督)と同年卒業でしたが、彼は一留して、僕は二浪しているから、同期生とは微妙に異なるんです(笑)。『鍋と友達』(02)などの彼の自主映画に、僕は演者として気楽に参加してきましたが、彼は短編を着実に撮り続け、初めての商業映画『南極料理人』で脚光を浴びることになった。今から僕が懸命に走っても一生追いつけません。入江くんも大学の後輩ですが、彼にももう追いつけない(苦笑)。彼らの作品を観た直後には『よし、見てろよ!』とは思うんですが、自分はその気持ちを抱えたままでは、仕事である脚本が書けないんです。自分を空っぽにしないと書けない。『まんが島』のアイデアは30歳ぐらいからあったものです。一緒にふたり芝居をやっていたこともあり、水澤に出てもらうのは決まっていて、そういえば2人で漫画家を目指していたなと、子どもの頃の思い出をもとに脚本を書き始めました。完成まで、ずいぶん時間が掛かってしまいましたね。製作費は『キツツキと雨』で脚本料をもらい、そのお金を撮影代に回したんです。沖田監督には世話になってます」

 守屋演じる漫画家は島へ移住する前、アパートの家賃を滞納し続けていたことを編集者(川瀬陽太)の口から明かされる。実はこのエピソード、守屋監督自身の実体験を投影したもの。守屋監督は家賃3万8,000円の風呂なしアパートに15年ほど暮らしていたが、家賃を催促する大家さんの足音に怯えながら『まんが島』のシナリオの改稿を重ねてきた。無人島でサバイバルライフを続ける漫画家たちの鬼気迫る暮らしぶりは、守屋監督の実生活と重なり合う。

守屋「毎日が必死でした。脚本料が振り込まれると、なぜかその日に限って大家さんが家賃の取り立てに現われるんです。なぜ振込み日が分かったのか……。大家さんも必死だったんだと思います。毎日が真剣勝負でした。そのアパートは先日取り壊されたんですが、長年住んだこちらとしても思い入れが深く、記念に鍵をもらっておこうと思ったんです。でも、その鍵も大家さんに取り上げられました。何も俺に渡したくなかったんだと思います。代わりにこっそり網戸をもらってきました。次の家に無かったんで」

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売れっ子漫画家を演じるのは注目の若手女優・柳英里紗。「冨永昌敬監督の『ローリング』(15)より先にオファーしました」(守屋監督)。

 映画の本題からずいぶん脱線してしまったが、本作の主人公たちが誰にもマネできない唯一無二の漫画の執筆に情熱を注いだように、守屋監督の『まんが島』もクリエイターの狂気に満ちた、誰も観たことのない超個性的な作品として誕生した。

守屋「自分の次を考えたとき、いわゆる名刺になるような作品をつくるべきだというのは分かるんです。でも周りから何周も遅れて、それでも重い腰を上げようとしたときに、『こんなにいっぱい映画があるのに、なんでわざわざ自分が映画をつくるんだろう』と人並みに考えて。そうしたら『名刺になるかも』なんて思ったものに、人を巻き込むことは出来なくて、見たことがないもの、自分が本当に見たいものを撮るしかなかった。あんなメチャクチャに見える台本に、キャスト・スタッフの誰からも質問がなかったのは、その気持ちに賛同してくれたのかなと今になって思います。こんなに好き勝手な映画をつくって、何言ってんだって言われるかも知れないけど、好き勝手やったんじゃないんです。脚本の初稿は連載を勝ち取るという結末だったのが、頭を空っぽにして『まんが島』という作品の要求を聞いていたら、いつの間にか今の結末に変わっていた。どんどんプリミティブに、ものづくりの起源みたいなものに迫っていく他ないんです、あの島に入ったら。やあ、とんでもない島ですよ、あそこは。それは当然、撮影・編集・音仕上げのプロセスにも反映されています。だから映画が始まったら、ただ画を見て、音を聞いて欲しい。そうやって映画の動きに身を委ねてくれたお客さんの中で起こる、見たこともない何かのためにつくった映画ですから」

 人気アンケートや世間の流行を気にせず、自分にしか生み出せないオリジナルの世界を追求する覚悟がある者だけが辿り着くことができる幻の島・まんが島。あなたは現代社会に残された秘境・まんが島に足を踏み入れる勇気があるだろうか?
(取材・文=長野辰次)

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『まんが島』
監督・脚本・編集・制作/守屋文雄
出演/水澤紳吾、守屋文雄、松浦祐也、宇野祥平、政岡泰志、川瀬陽太、柳英里紗、笠木泉、森下くるみ、河原健二、長平、邦城龍明 
配給/インターフィルム 3月25日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
(c)2017守屋文雄
http://manga-jima.com


Source: 日刊サイゾー

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