“団地の給水塔”の地位向上を目指す「日本給水党」党首に会ってきた

団地の給水塔の地位向上を目指す「日本給水党」党首に会ってきたの画像1cap 

 私は大阪・中津にある自費出版本専門書店「シカク」(http://uguilab.com/shikaku/)の店員をしているのだが、店を代表するロングセラー本のひとつに『ポケット版「団地の給水塔」図鑑』がある。

団地の給水塔の地位向上を目指す「日本給水党」党首に会ってきたの画像2
団地の給水塔の地位向上を目指す「日本給水党」党首に会ってきたの画像3

 青空を背景に建つ、不思議な造形をした建築物が表紙になっている本で、団地に併設された「給水塔」ばかりを撮影し、タイプ別に分類・解説している。

 団地の給水塔と聞いて「ああ、あれのことか」とイメージができる人って、どれぐらいいるだろうか? ちなみに私は、実際に目にしたことはほとんどなく、20年近く前に一度、東京郊外の町を歩いていて、突如として近未来的な形のタワーのようなものが目の前に現れて驚愕した記憶がある。この本によると、あれは「とっくり型」の給水塔だったようだ。

 著者は「日本給水党党首」であるUCさん。彼は以前、当コーナーで紹介した「ドムドム連合協会」(参照記事)ならびに、団地愛好家集団「チーム4.5畳」のメンバーでもある。なんとも肩書の多い人物だ。

 今回はそのUCさんに、なぜ団地の給水塔に興味を持つに至ったのか、また団地の給水塔の魅力とは一体どのようなものなのか、話を聞いてきた。

***

団地の給水塔の地位向上を目指す「日本給水党」党首に会ってきたの画像4
「日本給水党党首」UCさん

――日本全国の団地の給水塔を巡っているとのことですが、きっかけはなんだったんですか?

UCさん 私が生まれたのは新潟県なのですが、小学2年生の時に福島の郡山へ引っ越しまして、さらにその後、5年生の夏休みに大阪へ引っ越してきたんです。引っ越し先の近くに「大阪市営古市中団地」という団地があって、そこに給水塔が3基併設されていたんです。その時はそれが給水塔だということもわからず、“あれはなんなんだろう?”と疑問に感じていました。鉄塔じゃないし、煙突でもないし、でも友達に聞いてみるでもなく、なんとなくと受け入れて暮らしていました。不思議な形の建造物だけど、子ども心には、それが当たり前の景色の一部という感じだったんです。

団地の給水塔の地位向上を目指す「日本給水党」党首に会ってきたの画像5
「大阪くらしの今昔館」に展示されている「古市中団地模型」

――変だなぁとは思いながらも、特に興味は持たずにいたと。

UCさん その後、2003年ごろに、その団地が取り壊しになったんですよ。建物がなくなってから、“あの塔は一体なんだったんだろう”っていう疑問がまた湧いてきて……。インターネットが普及し始めたころだったので、ネットで情報を探してみたんです。情報は少なかったんですが、団地の写真を多数掲載している「団地百景」(http://danchi100k.com/)というサイトと、「高架水槽コレクション」(http://www.geocities.jp/tanglewood803/)というサイトを見つけまして。「団地百景」には小さいながら古市中団地の写真も掲載されていて、それがどうやら給水塔というものらしいということがわかりました。また、「高架水槽コレクション」を見て、給水塔の用途や、さまざまな給水塔が全国各地にあることがわかりました。それでようやく、“なるほど、そういうものだったのか!”と。

――大人になって、ついに正体がわかったんですね。

UCさん はい。すっきりしました(笑)。それから数年して通勤で京阪電車に乗っていたら、同じ形の給水塔が車窓から見えたんですよ。“あっ、同じやつだ!”と、とても驚いて、休みの日に行ってみることにしました。それは寝屋川の警察の宿舎にある給水塔だったんですが、取り壊す直前で、ほとんど人も住んでいない状況だったのを覚えています。間近で見ると、かなり迫力がありましたね。それで、ほかにもあるのかな……? と気になってきてしまって。

――ハマってしまったわけですね。

UCさん そのころにはもうグーグルマップがあったので、「団地百景」などを見て、見当をつけた場所をグーグルマップで確認して。ただ、今と違ってストリートビューはなかったので、航空写真でその場所をチェックして、“影が延びているかどうか”で、それが塔なのかを判断していました(笑)。まずは、近場の大阪から巡っていくことにしまして、そうやって見ていくと、違う形の給水塔があることもわかって、さらに面白くなっていったんです。

――それで、全国の給水塔を見て回ろうと決意されたんですか?

UCさん いえ、最初はネットで調べて、近場のものを見に行って満足していました。そうしているうちに、現在「チーム4.5畳」としても活動している、けんちんさんに出会ったんです。彼は「団地BAR」というイベントをやっていて、団地の面白さを広めていました。そこで「いま、給水塔に興味があって……」と話したところ、「団地の給水塔だけを専門に研究してる人はまだ誰もいないから、絶対やったほうがいい!」と、かなりの勢いでけしかけられまして(笑)。

――運命の出会いですね!

UCさん そこから、本腰を入れてやってみることにしました。見れば見るほど違いが見えてくるし、最初のころに見たものも、知識が入って見直すと違って見えてきたり。分類ができてきて、特徴がよりはっきりしてくる。そうすると、もう止まらない(笑)。路上観察系の趣味を持っている人は、だいたい同じ流れだと思います。行けば行くほど、深みにハマるという。

――団地の給水塔って、どこらへんが面白いんですか?

UCさん 給水塔には、工場だったりとか、鉄道関連の施設などに併設されているもの、自治体の水道局が管理しているものなどがあります。そういう場所の給水塔はすごく大きなものが多いんですが、それと比べて団地の給水塔はもう少し小さくて、日常の暮らしの中にある。人が住んでいるすぐ横に、得体の知れない形のものがあるっていう不思議な感じが魅力だと思っています。

――UCさんが子ども時代に感じた不思議さですよね。

UCさん そうです。あんな不思議な建物が、あくまで生活の中に平然と存在しているという。

――分類があるとのことですが、どんなタイプがあるんでしょうか?

UCさん あくまで僕が勝手に名付けて分類したものですが、

お酒を入れるとっくりに似た形状の「とっくり型」、

団地の給水塔の地位向上を目指す「日本給水党」党首に会ってきたの画像6
大阪府公社金岡東B団地(大阪府堺市)

細長い直方体の「ボックス型」、

団地の給水塔の地位向上を目指す「日本給水党」党首に会ってきたの画像7
UR荒江団地(福岡市城南区)

タンクや配管などの構造がむき出しになっている「むき出し型」、

団地の給水塔の地位向上を目指す「日本給水党」党首に会ってきたの画像8
神奈川県営鶴ヶ峰団地(横浜市旭区)

頂部のタンクが円盤状の「円盤型」

団地の給水塔の地位向上を目指す「日本給水党」党首に会ってきたの画像9
東京都営喜多見二丁目アパート(東京都世田谷区)

などがあります。

――それぞれ個性があって面白いですね! ちなみに、現在までにどれぐらい巡っているんですか?

UCさん 08年4月から始めて、これまでに630基です。チーム4.5畳のメンバーに、「やるなら1,000は行かないと」とハッパをかけられて、そうだなと思ったんですが、数えてみると、全国に現在残っているものをすべて巡ったとしても、おそらく1,000もないんですよ(笑)。でも、できる限り行きたいと思っています。

――UCさんはお仕事をされながら、空いた時間に撮影に行っているそうですが。

UCさん 基本的には週末と、たまに休みを取って撮影に行っています。なので、なかなか一度にたくさん回るというのが難しいんですよ。一度、長めの休みが取れた時があって、その時は東京の池袋の「東横イン」に5連泊して、毎朝山手線に乗って東京近郊の給水塔を撮影に行きました。普通に毎日出勤してるような気分でした(笑)。

――遠方での撮影、結構大変そうですね。

UCさん 例えば北海道の団地の給水塔は、現在では旭川と苫小牧方面の2つしかないんですよ。電車で3時間半以上かかる距離なんですが、旭川に宿を取ってまず撮影して、それから苫小牧方面に撮影しに行って、最初に旭川で撮影した時にあまり天気が良くなかったんで、次の日また行ったり(笑)。めちゃくちゃ効率が悪い。

――撮影される際は、天気にもこだわるんですね。

UCさん 天気の良い日に、青空をバックに撮影するようにしています。団地の給水塔って、古いものだし、曇天とか夕暮れを背景に撮影すると、どこか寂しげに見えちゃうんですよ。孤立無援な感じが出てしまって。自分としてはもっと、パキッとフラットに、キレイに撮影したいんです。見てくれた方に、自由に想像してもらえるような写真にしたい。もちろん、私も、ふと寂しい気持ちになる時もあるんです。「こんなところまで来て、給水塔を撮影して、何やってるんだろう……」って人生と対峙したり(笑)。でも、それを写真にはあくまで反映させたくなくて、明るく開けた感じで見てもらいたいなと思いますね。

――そんなUCさんの、フェイバリット給水塔はどれですか?

UCさん 基本的には“給水塔に貴賎なし”というのがポリシーです……という前提なんですけど、強いて言うとしたら、大阪・堺市にある「大阪府営八田荘住宅」ですね。

団地の給水塔の地位向上を目指す「日本給水党」党首に会ってきたの画像10

とっくり型の給水塔が3基あるんです。私が最初に給水塔と出会った古市中団地と同じで、さらに規模も大きい。見晴らしも良くて、ずっと佇んでいられます。駅からも近くて行きやすいので、ここは何回も行っています」

――撮影時に、特に印象に残った給水塔はありますか?

UCさん 今はもうなくなってしまったんですが、大阪・高槻市にあった「UR総持寺団地」の給水塔は印象に残っています。

団地の給水塔の地位向上を目指す「日本給水党」党首に会ってきたの画像11

 給水塔の真下にベンチがあって、いつ行っても、そこで近所のおばちゃんが井戸端会議をしていたり、おじいさんが新聞を読んでいたりと、思い思いの時間を過ごしていて……。

団地の給水塔の地位向上を目指す「日本給水党」党首に会ってきたの画像12

 その風景が、とても穏やかで好きでした。一方で、給水塔を撮る時は人を入れないようにしているんで、「そろそろ動いてくれないかなー」なんて勝手なことを思ったりもしましたが(笑)。

――団地の給水塔って、年々減ってきてるんですか?

UCさん 正確な数はわからないですが、私が撮影したものの中でも、現在までに少なくとも50基はなくなっています。ただ、給水塔を壊すのにも費用がかかるので「使っていないけど残している」というところも多いんです。なので、急激に減るということはないのではないかと。決して増えることはなく、徐々に減って行く一方という感じでしょうね。近所に団地があって給水塔もあるという人は、貴重なものだと思って愛していただければと。

――これを読んだ人にも、近くに給水塔がないかどうか、探してみてほしいですね。

UCさん 「給水塔が壊されるらしい!」など、情報がありましたら、ぜひTwitterに書いていただけるとうれしいです。「給水塔」というワードを含むツイートは、毎日すべて見ていますので(笑)。

――最後に、UCさんの今後の展望をお聞かせください!

UCさん 撮りためた給水塔の写真集を作りたいと思って、準備を進めています。年内には出せたらなと思います。あとは、ゆっくり自分のペースで撮影を続けていきたいですね。

***

 団地のそばに立ち、人々の暮らしを支えた給水塔。必要不可欠なものでありながら、ちょっと忘れられがちな存在。まだ残されているうちに、その不思議な佇まいを目に焼きつけておいてみては?
(取材・文=スズキナオ/給水塔写真=日本給水党)

●UCさん公式Twitter
https://twitter.com/watertowerUC
●公式サイト
http://kyusuitou.blog87.fc2.com/


Source: 日刊サイゾー

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です